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環境・エネルギー&気になる情報2

環境・エネルギー&気になる情報2

誰も知らないレアメタルの現実(2)

岡部:今後、国家備蓄を担う石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)など国の関係機関が、どれだけ長期的に戦略的な備蓄計画を実施していけるか。今回の件が、単年度主義の政府予算を背景に、一過性の短期的な措置で終わらないことを祈るばかりです。

 中国以外でレアアースの生産計画が複数立ち上がったりする中、私は今後、需給バランスが変化して関連するレアメタルが暴落する局面もあり得ると見ています。そのときまでに、備蓄プログラムやポリシーを整備して、価格が下がったときに、密かに機動的に買いを入れて、備蓄量を増やせるかどうかがカギになります。ある意味、レアアースに対する人々の関心が冷めたときが重要なわけです。備蓄や資源外交には、制度、予算、人材の総合力が問われます。

リサイクル事業は成り立たない
Q:今回、成果を発表したネオジム磁石のリサイクル技術ですが、記者たちには「実用化したとは書かないで」と念を押していましたね。技術を開発した本人が、事業化はコスト的に見合わないとキッパリ言っていたのには驚きました。先生ご自身は、今回の成果をどのように位置づけているのでしょう。

岡部:プロセスの有効性を実証した程度の基礎研究の段階で、工業プロセスとは距離があるので、「実用化ではない」と言いました。

 まず、前提として使用済み製品からレアアースを取り出すリサイクルは、工業的には現在ほとんど行われていません。理由は簡単で、一般に鉱石からの製錬に比べて、製品からのリサイクルはコストが高くつくからです。今回開発した技術も例外ではなく、すぐに事業化することは難しい。使用済み製品からの回収が成り立つのは依然、鉄スクラップやアルミニウムなどのまとまった量が集まるものと、単価が極めて高い貴金属類だけです。中国が低コストで生産し続ける限り、私はレアアースを含むレアメタルのリサイクルは、当面、商業的に成り立つことはないだろうと見ています。

 では、今回の研究成果のポイントは何かと言えば、ネオジム磁石のスクラップから、水溶液を使わない乾式法を用いて、廃液を出さずにネオジムやジスプロシウムを効率よく分離、抽出する環境調和型の新技術にメドをつけたということです。

 分離・抽出のプロセスには大きく湿式と乾式の2つがあって、水溶液中で分離・抽出する湿式法は処理後にどうしても重金属などを含んだ有害廃液が残ってしまいます。これに対して、乾式法は有害な廃液を出さずに済む。ただ、コスト的にはさらに高くなるという課題が残ります。

コストの追求と環境汚染
岡部:実はコスト的には湿式の方がずっと安くできます。だから、もし、レアメタルのリサイクルを検討すれば湿式を選択する可能性が高くなります。しかし、有害廃液の問題があるため、日本をはじめ環境規制が厳しい先進国ではやりにくい。だから、やるなら途上国などの環境規制が緩慢な国で行えばいいということになるかもしれない。しかし、単に経済性を優先して、環境を汚染する可能性があるリサイクルプロセスを実施してよいのでしょうか。

 繰り返しになりますが、貴重な鉱物をタダ同然で掘り出して製錬して、安値で売り払うという今の経済原理を優先している以上、リサイクルするより鉱石を製錬した方が圧倒的に有利です。

 一方で、ネオジムやジスプロシウムは日本の産業にとっては戦略物資でもあるわけです。危機管理的な意味を含めて、国内での資源循環を可能にする新技術の確立は意義があると思っています。

 例えば、もっぱら備蓄用などの公共目的に、経済的には成り立たなくても、捨てずにレアアースをリサイクルするというスキームがあってもいいのではないでしょうか。今、行われている家電リサイクルは義務化されていて、コストがかかっても一部の家電はきちんとリサイクルされています。こうした仕組みをうまく利用して、現状では廃棄されているレアアースを日本でリサイクルすることも可能です。この場合、少々コストが高くても廃液が出ない乾式リサイクルが適していると思います。

Q:レアアースに関していえば「都市鉱山」への期待は限定的という見立てなわけですね。素人目には、工業製品の方が鉱石よりも含有レアアースの濃度は高そうなので、有望な資源だと思っていました。

岡部:スクラップは品位(含有金属の濃度)の高いものもあるが、一定ではない。また、スクラップ中のレアメタルは、計画的にまとまった量が調達できないとう問題もあります。さらに、工業製品の種類は膨大であるため、それぞれの製品が含有する元素の種類は多種多様です。それらのスクラップの組成は当然、均一にはなりません。工業的には、濃度そのものの高低より、濃度や量の変動への対応の方が厄介なのです。

 もちろん鉱石としては、品位は高い方が良いです。中国産レアアースが世界市場を独占できたのは、環境コストを払わずに安く生産できることに加え、中国南部でしか見つかっていないイオン吸着型希土類鉱床の存在が大きい。


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